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賃貸マンションを信託するとどうなる?家族信託の具体例
あおばコンサルティンググループ代表 田口 豊太郎(税理士)
こんにちは、税理士の田口です。
今回のメールマガジンも、前回に続き「家族信託」に関する話題をお届けします。特に今回は、読者の皆さまからよくご質問をいただく、「収益物件を家族信託にしたらどうなるのか?」というテーマに焦点をあてて解説します。
たとえば、「高齢の親が所有するアパートの賃貸管理を、そろそろ子どもに任せたい」といったケースは少なくありません。家族信託を活用すれば、所有者である親が判断力を失っても、子どもが収入管理や修繕、契約の更新などをスムーズに行えるようになります。
(ケース:親が所有する賃貸マンションを信託にした場合)
高齢のBさん(80歳)は、地方都市で10室の賃貸マンションを所有し、長年家賃収入で生活してきました。しかし、近年は体調が悪化し、「今後は自分で管理するのが難しい」と感じるようになりました。
そこで、長男とともに「家族信託契約」を締結することに。主な契約内容は以下の通りです。
委託者(財産を託す人):Bさん
受託者(財産を管理する人):長男
受益者(利益を受け取る人):Bさん本人
信託財産:賃貸マンション(土地・建物)
契約後、マンションの名義は受託者である長男に変更されますが、収益(家賃収入)は引き続きBさんのものです。長男は、管理会社とのやり取りを行い、修繕・入退去対応・賃料管理などをBさんに代わって進めていくことになります。
【信託のメリット】
このように家族信託を活用すれば、Bさんが認知症になった場合でも賃貸経営を継続でき、家賃収入による生活を安定的に維持できます。さらに、Bさんの死亡後に収益や不動産の帰属先(次の受益者)をあらかじめ契約で定めておくことも可能です。また、名義が長男に移っていることで、不動産の売却や契約の変更といった手続きも、成年後見制度のような制約を受けずに進められるというメリットもあります。
【注意点:信託契約に伴う税金とコスト】
不動産の名義変更には登録免許税がかかります。目安としては、建物は固定資産税評価額の0.4%、土地は0.3%です。また、次のような費用も必要になるケースがあります。
・信託口口座の開設費用(信託専用の預金口座)
・公正証書による信託契約書の作成費用(信託財産の価額に応じて変動)
加えて、受益者が変更される場合には、所得税や贈与税が課される可能性があるため、信託設計の段階で税務上の検討が欠かせません。さらに、家賃の振込先変更、賃貸契約の名義整理、信託口座の運用ルールなど、実務上の整備も必要になります。信託契約書を作成しただけでは終わらず、信託後の運用まで見据えた準備が重要です。
【収益物件を信託すべきかの判断基準】
家族信託は、次のような方に特に有効です。
・高齢の親が賃貸経営をしており、管理が負担になっている
・認知症などに備えて、将来の財産管理に不安がある
・相続時のトラブルを未然に防ぎたい
・将来的に物件を売却・再投資したいと考えている
収益物件のように「運用しながら守る資産」は、家族信託との相性が非常に良いと言えます。
状況に応じて、信託の活用を検討してみてはいかがでしょうか。それではまた。
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