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働きながら年金をもらうという選択肢

(2023年10月掲載)

石井 裕之
(CFPファイナンシャル・プランナ-)


こんにちは。FPの石井裕之です。

内閣府の令和5年版高齢社会白書によると、60代前半での日本人の就業率は、男性83.9%、女性62.7%となっています。動機や働き方は多様でしょうが、60歳以降も働き続ける人が過半数ということですね。私はむしろ、今でも男性2割弱、女性4割弱が60歳で完全リタイアしている方が驚きです(こちらも様々な人生模様がありそうです)。

ところで、20224月から国の年金制度がいろいろ変わりました。たとえば繰り上げ受給における減額率が、従前の1か月あたり0.5%から0.4%に縮小しました。また、60代前半の支給停止基準額も引き上げられました。これらの改正はまさに就業状況の多様化を反映したもので、60代前半の働き方にも大きく影響しています。

国の年金がもらえるのは、男性昭和36年、女性昭和41年の、それぞれ42日以降にお生まれの方は65歳からとなります。ただし希望すれば60歳からの受給が可能です。

最近時折、60歳定年後の雇用延長や再就労では収入が下がるとの理由で、年金を繰り上げてダブルインカムとすることの是非を聞かれます。実際そうされている方も少なくないようです。

一例として、60歳以降は月収が20万円、年間賞与120万円とすると、賞与を12で割った額+月収は30万円(=「総報酬月額相当額」といいます)。この方が繰り上げて60歳からもらえる老齢厚生年金の額(=基本月額※)が18万円以下であれば、年金額のカット(支給停止)はありません。つまり、総報酬月額相当額と基本月額の合計額(支給停止基準額)が48万円以下であれば、年金は全額支給されます(令和5年度の場合)。改正前は28万円だったので、このケースだと年金は全額カットでした。大きな違いですね。

(※調整対象は老齢厚生年金で、老齢基礎年金は対象外です)

改正により年金繰り上げ受給のデメリットが小さくなり、このような選択もしやすくなりました。ただし留意点があります。

  • 高年齢雇用継続給付と年金を両方もらうと、年金のカット(支給停止)があること。60歳以降に雇用が継続されて給与が大きく減少すると、減少幅に応じて雇用保険から給付(高年齢雇用継続給付)がありますが、その場合年金額が一部カットされます。

  • 同じく雇用保険から、失業給付(基本手当)をもらいながら転職活動をすると、その間は年金が支給停止されます。
  • 万が一、病気やケガで障害年金の受給対象になった場合でも、すでに老齢年金をもらっていると障害年金は受けられません。

 

  • (これが最大の懸念材料ですが)繰り上げ受給をすると、その月数に応じて年金額が減額されますが、繰り上げる際には老齢基礎年金と老齢厚生年金の両方を同時に行う必要があるので、どちらも減額が一生続くことになり、長生きするほど不利になります

 

私見では、繰り上げ受給を積極的に検討すべきケースは、次の3つくらいではないかと考えています。

1.経済的に非常に厳しく、繰り上げ受給しないと困窮してしまう方

2.健康不安があり、長生きできる自信がない方

3.国の年金制度を全く信用できず、本来の受給開始年齢まで待つのが心配な方

年金事務所へ手続きに行った際に、改めて窓口の職員からデメリットを説明してほしいと思う方もいらっしゃるかと思いますが、あまり期待しない方が良さそうです。繰り上げは受給者の権利であり、来訪者によっては「窓口が速やかに対応してくれない」とのクレームになる恐れもありますから。やはり、自助努力としてご自身で検討すべきなのでしょう。

それでは、また次回。