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「円安って、良いこと?」

(2022年4月掲載)
石井 裕之
(CFPファイナンシャル・プランナー)


こんにちは。FPの石井裕之です。


これを書いている3月お彼岸の頃、1ドル120円付近という、約6年ぶりの円安水準になっています。原油等の原材料高騰に加えて、この円安が物価上昇に拍車をかけています。

基本的に、円安になることは自分の保有資産の目減りを意味します。読者の皆さまにはご説明するまでもないでしょうが、たとえば1ドル100円であれば100円で買えたものが、今は120円出さないと買えないですね。海外通販での購入時に実感している方もおられるかもしれません(加えて物流コスト上昇も・・・)。

にもかかわらず、なんとなく円安が望ましいと思われている方、いらっしゃらないでしょうか。とりわけ事業部で海外出荷を担当されていた方、海外営業や経理関係にいらした方などは、当時円高による利益圧迫を経験されたことから、今も円安が望ましいと思われていないかと、(杞憂でしょうが)余計な心配をしてしまいます。

歴史をざっくり振り返ると、中国の工業化が1990年代に本格化し、安価な製品を大量に輸出し始めたことで、先進国の製造業は大打撃を受けました。日本のモノづくりを守るために、日本政府は2000年頃から対抗策として円安政策をとりました。国内賃金を円ベースで固定し、かつ円安にすることで、ドルでの表示価格を下げ、輸出を増加させる戦略です。

この結果、確かに輸出は増えましたが、同時に輸入も拡大しました。円安になると、輸入額は一層増大します。2005年頃から日本の貿易収支は黒字が減少し、やがて赤字基調になりました。

また賃金を固定化したことで、(円安だけが原因ではないにせよ)1990年代前半までは上昇傾向だった賃金も頭打ちになりました。日本の製造業を守るための政策が、結果的に、逆に首を絞めることになってしまいました。

そもそも現在、日本に約300万社あると言われる企業のうち、輸出で稼いでいるのは、一説には1%の3万社程度だそうです(今のNECグループも海外売上が多くあるので、その1%なのでしょう)。残り99%の企業にとって、円安はただのマイナスにすぎません。

まして、専ら円通貨で暮らす個人にとって、海外通販(ここでは売る側です)を手掛けている人以外は、円安は資産の減少に加え、物価高の要因にもなるという、デメリットだらけです(ただし外貨建て資産がある方は、円安により増加する分、恩恵ありといえます・・・前回ご紹介した4資産分散は、やはり有効です)。今のように給料や所得が増えず物価だけが上昇する状況を、経済の教科書では「スタグフレーション」と呼びます。この非常に困った状況の原因の一つが円安なのです。

為替取引は、世界中に無数のプレーヤーや利害関係者が存在して各々の思惑で動いており、たぶん(少なくても現在の)AIをもってしても正確な将来予測は困難でしょう。為替や株価の今後の推移表をもつのが神様たる所以とのこと。いずれAIは神様のレベルになれるのでしょうか・・・。

ちなみに韓国は、1990年代にウォン暴落による通貨危機に見舞われ、国家財政破綻の危機に瀕した経験からか、以後通貨高政策がとられています。新大統領の舵取りに注目ですね。そしてルーブルの行方についても・・・。

それでは、また次回。